消滅時効の援用をするとその後どうなるのか、デメリットはあるのか

文責:所長 弁護士 田頭博文

最終更新日:2025年01月07日

 借金を長期に渡り滞納している場合、もしかしたら消滅時効にかかっているかもしれません。

 消滅時効にかかっている場合、時効を「援用」すれば借金を返済しなくても良くなります。

 しかし、時効の援用には知っておくべき注意点もあります。

 場合によっては援用に失敗して、利息や遅延損害金も含めて滞納した債務を一括で支払わなければいけなくなってしまいます。

 今回は、借金を滞納している方に向けて、消滅時効援用の基本とそのデメリットを解説します。

1 消滅時効とは?

 まずは消滅時効の基本的な内容を理解していきましょう。

 借金があって返済しないでいると、債権者から返済の取り立てを受けることになります。

 しかし、何年も放置しているとそれは返済しなくても良くなる可能性があるのです。

 民法166条では、消滅時効を定めています。

 「債権は、・・・時効によって消滅する。」とし、権利を行使することができると知った日から5年(主観的起算点)、権利行使ができるときから10年(客観的起算点)で時効が成立します。

 つまり、最後に支払いを行った日から5年を経過している場合は、時効にかかっている可能性があるということです。

 消滅時効は、債権者にとっては不利な制度ですが、民法では「権利の上に眠る者は保護に値しない」という原則があるため、これに従い消滅時効が規定されているのです。

 消滅時効に関しては、これまで商事債権と通常の債権を分ける規定があったのですが、2020年の民法改正ですべて上記規定に統一されました。

 消滅時効が成立した後は、借金の支払い義務がなくなります。

 今後当該債務について、仮に取り立てを受けたとしても、時効の援用をしていれば支払う必要はなくなるのです。

 滞納していた借金がなくなるのはもちろんのこと、多額になった利息や遅延損害金もなくなります。

【時効援用後はブラックリストからも消える?】
 時効の成立により、信用情報機関にデータとしてある事故情報が消えることもあります。

 信用情報機関とは、個人の信用情報のデータを集めて金融機関や信販会社と個人の取引の際に個人の信用情報を提供している機関です。

 ローン審査やクレジットカード審査などの場合には、必ずこの信用情報機関のデータを確認してから、申請者に審査結果を伝えることになります。
 借金を滞納していると、「延滞」など事故情報が記録されることになりますが、消滅時効を援用するとこの情報も消去される場合があります。

 もっとも、信用情報機関は主に3つ存在するため(CIC、JICC、KSC)、消去されるかどうかはその機関により異なるのが実情です。
 なお、「援用したらすぐに住宅ローンを組める」「借入ができる」と考えるのは禁物です。

 仮にブラックリストから抹消されたとしても、携帯電話の分割払いなどで一定期間「お金を借りてしっかり返済した」という実績を作る必要があるでしょう。

2 消滅時効の援用とは?

 次に、消滅時効の「援用」という制度についてご説明します。

⑴ 消滅時効の援用=消滅時効利用の意思表示

 実は、消滅時効は「援用」の意思表示をしないと、時効が完成しません。

 民法145条では、時効の援用について定めています。

 具体的には、「時効は、当事者・・・が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。」と規定しています。

 すなわち、時効の援用は、消滅時効を利用することの意思表示を意味します。
 債務者などの当事者がこの意思表示である「援用」をしない限り、消滅時効は完成しないのです。

 債権者からすると貸したお金を返済してもらえなくなるため、当事者間の公平を考え、援用の意思表示をした場合のみに債務が消滅すると考えたのです。

 借金の返済を免れたい方は、「時効は援用しなければ無意味である」ということを覚えておいてください。

⑵ 消滅時効の援用の方法

 消滅時効の時効期間が過ぎている場合、消滅時効を援用したいと思うでしょう。
 債権者に電話して、「時効を援用します」といえば済みそうなところですが、口頭で援用をするのは「言った・言わない」の水掛け論になる可能性があり、リスクが大きいです。

 消滅時効の正しい援用方法は、内容証明郵便を債権者に送ることです。

 内容証明郵便は、相手方に配達したという事実とその内容、日時を証明できる郵便配達の方法です。

 内容証明郵便を送る場合は、3通同じ文書を作成して、1通を相手方に送付し、もう1通は郵便局に保管します。

 最後の1通は、ご自身で保管することになります。

 このように3つ同じものを作成してそれぞれが保管することにより、「文書を受け取っていない」という反論を防ぐことができるのです。

 裁判では、契約の内容などについて争いになることがあります。

 両者の言い分に客観的証拠があれば、裁定することが容易になるため、内容証明郵便も意思を伝えたことの証明に使われることがよくあります。

 時効の援用をしたい場合には、内容証明郵便にて正しく援用の意思を伝えるようにしましょう。

3 時効援用のデメリット

 債務者にとって、時効の援用にはメリットしかないように思いますが、実際上援用することにデメリットはあるのでしょうか?

 時効援用は、債務者にとっては権利行使の1つですので基本的には悪いことは生じません。

 消滅時効期間が経過していて返済をしたくないという場合には、時効を援用すれば返済義務がなくなるというメリットがあります。

 しかし、状況によってデメリットといえる結果があることもあります。

⑴ 援用の失敗の可能性

 時効の援用は思っているよりも専門的な知識が必要となり、素人の債務者が行うと、時効の援用が正しくできておらず、逆に債務を「承認」してしまい返済義務が発生してしまうこともあります。

 失敗するケースとしては、以下が挙げられます。

 ・時効の起算点を間違える

 ・通知方法が異なる

 ・その他、時効の更新事由があった
 (更新とは時効の起算点が振り出しに戻ることです。)

 時効の起算点を把握するのは難しく、多くの人が間違えてしまいます。

 時効期間が過ぎていないのに援用の意思表示をしてしまうと、逆に債務を承認したとみなされ、時効の更新となってしまうことがあります。

 時効の更新となると、時効の起算点が振り出しにもどってしまい、また一から時効期間が経過しない限り、時効を援用することはできなくなります。

 上記の承認以外でも時効の更新にあたる事由が考えられます。

 例えば、裁判上の請求や支払督促、和解や民事調停手続き、破産手続きの参加などです。
 具体的には、過去に裁判が起こされていて、判決等の債務名義を取得しているケースなどが挙げられます。

 いずれも「裁判所」が関わる手続きであることが必要で、例えば債権者からの督促状等は時効の更新には当たりません。

 このように、時効援用に失敗してしまうケースも珍しくないので、時効が完成しているかきちんと確かめたい場合には、弁護士に相談することをおすすめします。

⑵ 過払い金返還請求ができなくなる

 過払い金が発生している場合、時効援用により過払い金の返還請求はできなくなってしまいます。

 「滞納があると思っていたが、実際には払い過ぎていた」というケースもあります。
 この場合、時効を援用すると返還されるはずのお金が返ってこないというデメリットがあるのです。

4 時効援用が心配な場合は、弁護士に相談を

 消滅時効が完成している場合は、時効の援用が必要です。

 時効の援用をしない限り債務が消滅することはありません。

 時効が完成しているかもしれない場合には、本当に期間を過ぎているのか、確認をするためにも弁護士に相談するのがベストです。

 時効の完成までまだ時間があるものの、借金の返済ができない場合には「債務整理」を検討しましょう。

 借金の合法的な減額・免除が可能になる場合があります。

 (まだ時効完成には程遠い場合に援用しようとその期間を待つと、遅延損害金が溜まっていき、最終的に支払いが増えてしまうという可能性もあります。)

 借金を支払えない場合は1人で抱え込まずに、弁護士や法律事務所に相談することが大切です。
 

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